〈Dolore―uno―・1〉





 気付いたのはいつだったか。
 スコールは、何かを深く考え込んでいるようでもあり、遠くを臨んでボーっとしているだけにも見えた。
 別に邪魔者扱いされるわけでもなく、何度か声を掛ければおれという存在に気付き、今までと同じように接してくれてはいた。
 努めて誠実に。
 おれの居心地が良いように。

 ああ、そうだ。
 ちょうど、スコールがジタンと一緒に、みんなには内緒の企画に参加していた頃か。
 そういう事情で疲れているんだろう程度にしか思ってなかったから、忙しいスコールを捕まえてわざわざ問いただすような真似はしなかった。
 おれが曖昧にしているうちに、ジタンもスコールの態度が変わった事に気付き、「おまえが何かしたのか?」って問い詰められて……。
 正直に言えば、ジタンに指摘されるまで、スコールがおかしくなった原因が自分にあるなんて、これっぽっちも考えていなかった。
 ……でも。
 当の本人であるスコールに直接聞きに行って、ジタンの言葉が正しかったと思い知らされたんだ。
 スコールは、「いつもと変わりはない」と答えた。
 納得できないおれが尚も食い下がると、何か言いたげなそぶりを見せたけど、結局は言葉を呑み込んで。
 言わない代わりに……。


 聞きに行った直後から、スコールに避けられるようになった。


 最初こそ声をかけても「他にやらなければならない事があるので、……すまない」と言ってくれてたけど、徐々に避け方もはっきりと分かるようになり……。
 ついには、会話が続かない沈黙の後、おれが言葉を捜している隙に、「……じゃあな」と背を向けるようになってしまったのだ。
 拒絶を露にしたスコールの背中を見た時に初めて……。
 ……息が出来なくなるような胸の痛みを知った。
 心臓を絞られているんじゃないかと感じるほど、苦しくて……痛い。

 恋人になるって、こんな痛みを伴うものなのか?
 一緒に居ると楽しいってだけじゃ、ダメなのか?
 おれはただ……穏やかに笑うスコールを見ていたいだけなのにな。
 考えているだけでも、痛みは益々強くなる。

 …………。
 ダメだ。
 落ち込んで考え込むのは、おれの性に合わない。


 こんな風に避けられるくらいなら、いっそ清々しくはっきり白黒付けて欲しいと、スコール本人をとっ捕まえて直談判すると、返ってきたのは意外な答えだった。
「避けているつもりは無い」
「……誤解させたのなら、すまない」
「今後は気を付けよう」
 真顔だ。
 スコールは、こんな局面で冗談や嘘が言えるほど器用なヤツじゃない。
 そのくせ、言ったそばから「……じゃあ」と、背中を向けるのだ。
 無意識……だとしたら、余計に始末が悪いじゃないか!

 スコールが意識していないなら、「なぜ避けられているのか」の答えを引き出すことは出来ない。
 答えが貰えないなら、自分で探すしかないだろう。
 無意識に避けられるような事を、おれが何かしでかしたに違いないんだから。
 きちんと答えを見つけられなければ、スコールの背中を見るたびに痛みに襲われる。
 それに多分……。
 スコールはおれ以上に辛いんじゃないだろうか。
 意識の下ではおれを避けたいと思っているのに、本人は全く気付かずおれに気を遣ってくれている。
 スコールの為にも、真剣に向き合わなくちゃな。

 最初は、寝ている時か酔っ払って記憶の無い時に、何かとんでもなく怒らせる事をやらかしたのかと考えた。
 でもそれなら、スコールは意識しているだろうし、「酒に呑まれるような飲み方をするな」くらいは言ってくるだろう。
 絶対に有り得ないとまで言い切れないけど、何となくこれは違うような気がした。
 じゃあ他に何か……と考えてみたけど、何せこういう経験に乏しいので、さっぱり思い浮かばない。
 かと言って、誰かに相談できる内容じゃないし。

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