〈A Light in the Black―5―〉

 秩序の聖域を一歩外へ出ると、そこには『闇に向かう空』が広がっていた。
 バッツの言葉を借りれば、『混沌に呑まれようとしている世界』
 この景色に怖気づいて足が竦むような臆病者はさすがに一人も居なかったが、この不気味な色には皆が気を重くした事だろう。

「先を急いだ方がよさそうッスね……」
 斥候として一番前を進んでいたティーダが、後ろのメンバーに先を促す。
 そう――。
 世界が闇にのまれる前に、我々は光を取り戻し、この世界の均衡を守らなければならない。


 混沌に傾きかけた世界は、容赦無く俺たちに襲い掛かってくる。
 だが、イミテーションの群れに遭遇した時点では、まだ気付いていなかった。
 数だけは多いが所詮はイミテーションだと、高を括っていたのは俺だけだったのだろうか。
 この無機質な敵と剣先を交わした瞬間に初めて、その違和感に気付いたのだ。
 攻撃は通るのに、思うようにダメージを与えられない。
 そのうえ、敵の一撃が想像した以上に重いのだ。
 勢いに任せて小手先でガードをすると、足元が踏ん張りきれない。
 たかがイミテーションごときが、こんなに強かったのか。

 秩序の神を失った世界に於いては、今までと同様に戦えないと言うのか?
 もしかすると、闇の力を得て、イミテーションは想像以上にパワーアップしているのかも知れない。
 …………。
 もしこの仮定が真実であったとしても、今は目の前の敵を排除するだけだ。
 圧迫されるような闇の重さに抗いながら、混沌の産物であるイミテーションに得物を向け直す。
 どんな技を繰り出そうと一撃では期待していたほどのダメージが与えられないのであれば、手数を増やして削り取っていくしかあるまい。
 だが、戦闘時間が伸びれば伸びるほど、生身の人間である此方側には不利に働く。
 それが分かっているからこそ、俺の前を塞ぐイミテーションに、段々と苛立ちが募ってくる。
 邪魔だ、退け!
 俺の左前で大剣を振るうクラウドからも、自分と同じ焦りと苛立ちを微かに感じ取った時――

「スコール! 左!」
「クラウドの敵を二人で囲んで、先に倒して!」

 声の主は――セシルだった。
 その言葉に応じクラウドの戦っていたイミテーションに剣先を向ければ、今まで俺が戦っていた一体には、間髪入れずにセシルのダークカノンとティナのメテオが降り注ぐ。魔法だけでは倒すに至らないが、足止めには十分過ぎるほどだ。おかげで此方は2対1の優勢で戦える。
 少しばかりではあるが、戦闘が優勢になったおかげで先ほどの苛立ちも収まってきた。
 苛立ちが収まり心にゆとりが出来ると、戦闘の大局が見えてくる。
 前を行くジタンとティーダは、足の速さで敵を撹乱しながら、機を見て攻撃に転ずる戦術を採っているようだ。あの二人は10人の中でも屈指の体力の持ち主だし、必要とあらば連携を取るなどの柔軟な戦い方も出来るので、今のところは心配無いだろう。単純思考な性格さえ顔を覗かせなければ、だが。
 ウォーリアの敵には、補助としてフリオニールがガードをしながら攻撃を仕掛けている。これも、セシルの指示だろうか?
 そして、最後方からのサポートにも、今頃になって漸く気付く。
 いつの間にか全員にプロテスとシェルが掛かっていて、敵から受けるダメージがかなり和らいでいたり、少しでもHPが減るとほとんど間を置かずに背後から的確にケアルが掛けられる。
 今まで余裕が無かった為に、そんな事すら気付かなかったのか。
 ――バッツ。
 回復役には、バッツとオニオンの二人が居る。だが、俺にケアルを掛けているのはバッツだ。一片も疑うことなくそう信じられる。
「おれ、後ろからおまえのことちゃんと見てるからな」
 出陣前にかけられた、バッツの言葉が蘇る。
 すると、今までの不甲斐ない戦いも見られていたのだろうか。
 今更バッツに虚栄を張っても意味など無い。そんな事は、端から分かっているが……。
 だからと言って、あまりにも体たらくな姿も見せたくは無い。
 見栄と言うよりは、疲れた体を奮い立たせる為の理由付けのようなものだ。
 実際、見られていると意識した後では、力が漲ってきたような気がするのだから性質が悪い。

後編
backhome


楽天モバイル[UNLIMITが今なら1円] ECナビでポインと Yahoo 楽天 LINEがデータ消費ゼロで月額500円〜!


無料ホームページ 無料のクレジットカード 海外格安航空券 解約手数料0円【あしたでんき】 海外旅行保険が無料! 海外ホテル