〈輝きの世界を!其の伍・1〉

 そう遠くない場所で、何かが光ったような気がした。
 最初は気のせいかと思ったが、太陽に鏡を当てたようなチカチカする光が断続的に続くので、バッツは意を決して次元城天辺の崖際ギリギリの所まで歩を進めてみる。
 先程まで見えなかった足下の風景がはっきりと視界に飛び込んできた事で、否応無しに高さを実感し、高所恐怖症のバッツの足が竦む。
 だが、そもそもスコールを見つけるために、自分から望んで上ったのだ。今更恐いなどとは言えない。
 キュッと唇を固く結び、高所の恐怖を振り払おうとしたその時――。
 バッツの手の中でクリスタルが輝き出した。
「な、なんだあ?」
 バッツが訝しがっている間にも、クリスタルは益々輝きを増し、先程何かが光っていた場所に向けて、美しい光の線を放ち始めた。
「これ……」
 キラキラと粒子が陽に反射するその光線は、徐々に短くなっている。
 先程見た光――光線の一方の端が、もの凄い勢いでバッツに向かってきているからだ。
 この段階になってバッツは確信する。
 光の先に、スコールが居ると――。
 確信に至る理由など無い。ただの直感だ。
 だが何故か、100%に近い自信を持ってスコールだと断定できる。
 そうと分かったのなら、自分からもスコールに向かっていかなければ!
 勇気を奮い立たせて一歩進もうとしたところで、下からの突風が吹き、バッツの足元がグニャリと揺れた。
「うわあっ!!!」
 実際に揺れたのでは無い。
 風に煽られた恐怖で腰が砕け、足が自分の体重を支えられなかったのだ。
 その場にペタンと座り込んで、バッツは呆然とする。
 何でこんな大事な時に――。
 戦闘中であれば、どんな高い所でも敵に意識を集中しているから、恐いと怯む事は無い。第一怯んでいたら、命に関わる。
 今は命には関わらないが、戦闘と同等もしくはそれ以上に大事な局面だ。
 何でこんな大事な時に――っ!
 泣きたくなった。いや、泣いている暇は無い。
 震えている自分の足を二度三度と手で叩いた後、重い上半身を腕で支えながら、ようやく膝をついた前のめりの姿勢にまで持っていった。
 だが、この体勢は真下が見えるので、余計に恐怖を煽られる。
 このままバランスを崩したら、真っ逆さまに落ちてしまいそうだ。
 そうこうしている内にも、自分のクリスタルと対の光は、猛スピードでバッツに近付いて来ている。
 目を瞑って、あの光の方へエアダッシュで飛んでいこう。
 しぼんでしまった勇気を、もう一度ありったけ集めて右膝を立てる。
 このまま壁を蹴れば行ける筈だ、と膝と踵に力を入れた刹那――


「バッツ!!!」


「うわあああああっ!!」
「バッツ?!!!!」


 ちょうど壁を蹴ろうとした瞬間に聞こえた自分を呼ぶスコールの声に動揺し、バッツは全身から力が抜けてしまった。
 壁を蹴ったつもりで大きく空振りし、あとは重力のなすがままに落ちて行くだけ。
 慌てふためいたバッツは、本来は空を蹴るというエアダッシュの特性も思い出せず、受身の体勢すら忘れてしまった始末である。
 ――落ちる!!
 あと1メートル程度で地面に叩きつけられると覚悟したバッツが両目をぎゅっと瞑った時、右腕が乱暴に掴まれ、バッツの体は勢い良く宙空に放り投げられた。
「へ?」
 一瞬のうちに何が起こったか理解できず、すっ呆けた声を出したバッツが目を開けて下を見た時。
 それはそれは恐ろしい形相をしたスコールが、バッツの降りてくるのを待ち構えていた。
 一度宙に放り投げられたおかげで、落ちる速度は先程と違いかなり緩やかになっている。
 落ち着いて受身の体勢を取り、バッツが爪先から地面にふわりと着地した瞬間、それまで一度も聞いたことの無い怒声が頭上から響いてきた。

「何をやっているんだ、おまえは?!!!自殺でもする気だったのか!!!!」
「ち……ちが……」
「何が違うんだ、あんな所から飛び降りておきながら!!!」
「……お、おお、落ちたんだ……」

 あまりのスコールの剣幕に、バッツはしどろもどろになりながら弁解するのがやっとだった。
 その姿に多少落ち着きを取り戻したスコールだったが、それでもまだ眉間に深い皺を刻み付けたまま、怪訝そうに事の顛末を尋ねてくる。

「落ちた、だと?」
 まだ少しばかり目が泳ぎがちではあったが、バッツはうんうんと頷いてから、高所恐怖症である事やエアダッシュを試みて空振りした事などを、有りのまま包み隠さずスコールに話す。
 バッツは元々嘘がつけない。
 そうと熟知しているスコールは、バッツの言葉を聞いた途端、体全体から思い切り力が抜けるのを感じ、盛大な溜息を吐いてその場に座り込んでしまった。
 驚いたバッツは、慌ててスコールの横に膝をつき下から顔を覗き込みながら、酷く不安げな声でスコールに呼びかけた。

「ス、スコール?」
「…………心臓が止まるかと思った」
「ご、ごめん」
「……」
「……助けてくれて、ありがとな」
「無事なら、それでいい」
「……うん」
「……」
「……」

 ……長い沈黙。
 お互いに、会ったら言おうと考えていた事が有るには有ったのだが、『バッツ落下事故』の衝撃で、とてもそんな雰囲気ではなくなってしまった。
 元々スコールはまずバッツの無事を確認したかったのだし、バッツはバッツで何をどう伝えていいのか悩んで未だに答えが出せていない。
 この気まずい沈黙に、先に耐え兼ねたのは、珍しくスコールの方だった。

「……バッツ」
「ん?」
「……いや」
「ナンだよ?」
「……」
「……スコール?」
 スコールは何かを言おうとしている。
 バッツにもさすがにそれは分かったので次の言葉を待っていたが、言葉は発せられる事無く飲み込まれてしまった。
 辛抱強く待っていれば良いだろうかと、バッツは逡巡する。
 そして――。

「……戻ろう」
「え?」
「厄介な敵が増えてきている。ジタンやクラウドも心配しているだろうから、早々に合流した方が良い」
「……う、うん」
 暫く何かを考えた末にスコールが発した言葉は、恐らく先程言おうとしていた事とは違う。
 それは雰囲気から見て取れる。
 スコールは立ち上がりバッツを促すが、バッツは俯いたまま立ち上がろうという気配が無い。

 このまま……何事も無かったように、仲間の元へ戻り……。
 伝えられなかった想いを封じ込めて蓋をして、また戦いの日々に明け暮れる。
 そのうちに、閉じ込められた想いは風化し、やがて消えてしまうのかも知れない。
 ……それで、いいのだろうか。


「行くぞ、バッツ」
「……」
「どうした?」
「……おれ……」
「……?」
「ちゃんとスコールと話がしたい」
「……」
「また同じ事を繰り返して、スコールを傷つけるのが恐い」
「……気にするな」
「気になるさ、当たり前だろ?!」
「……バッツ」
「言いたい事あるんだろ? 何で言ってくれないんだ?」
「……(……それは……)」
「おれ、……おれはっ!」
「……バッツ?!」




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