■■Don't be Afraid■■





 イミテーションに翻弄されているやつらを見た。


 大量生産された戦うだけの道具、使い捨ての兵器。
 それと分かっているはずなのに、遠目から見ても、あいつらは本気で戦う事に躊躇っている動きをしている。
 まさかとは思うが、姿かたちが俺達に酷似しているから、……なのだろうか。
 もしこの仮説が正しいのならば、戦士としては致命的な甘さだ。
 その甘さが、命取りになり兼ねない。
 そら見ろ。
 一瞬の迷いが、周りに潜んでいたイミテーションどもを呼び寄せる。
 多勢に無勢。
 今更本気になってイミテーションに対峙したところで、数による劣勢は覆せないだろう。
 ――仕方が無い。

 ガンブレードを携え、一気に戦闘の中心まで飛び込んでいく。
 構える隙を与えずに先制攻撃でエアリアルサークルを繰り出し、怯んだところへ更に攻撃を畳み掛ける。
 まさかと思うが、あの二人は、この程度の攻撃に巻き込まれてはいないだろうな?
 一連の動作をよどみ無く進めた後、目線のみで二人の姿を追えば、さすがにそこまで素人ではなかったらしく、互いを背に攻撃へと転じていた。
 仮にもコスモスに呼ばれた戦士だ、これくらいは当然の事か。
 戦況は逆転した。
 あとはこの偽りの命を塵に返す作業に没頭すれば良い。
 一体、また一体と断末魔の声をあげて、イミテーションは霧散していった。
 後に残ったのは――。

「助かった〜! サンキューな!!」
「お、もしかして一人か?」
「じゃあ旅は道連れだな、一緒にクリスタルを探そうぜ!」

 ……言うべき事は他にも多々あったが、流されて一緒に行く羽目になるのはご免蒙りたいという思いが先に出て、結局その場では同行を断る以上の話はしなかった。
 確かに『仲間』ではあるが、ベタベタとくっついて徒党を組むだけが『仲間』では無い。少なくても、俺はそう思っている。
 ジタンはまだ何か言いたげだったが、意外にもバッツの聞き分けが良くて助かったと言ったところか。
 結局、俺の手にはバッツから渡された『幸運のお守り』が残り、やつらは別の道へと走って行った。
 ……『幸運のお守り』、か。
「スコールのことが心配なんだよ」
 心配などしてもらわなくても、俺は戦いのプロとして訓練を受けている身だ。
 兵士や騎士ならともかく、旅人や盗賊などという片手間に戦うやつらとは違う。
 イミテーション相手に苦戦していたやつからの心配など、俺には無用だ。
 そんな考えが、まったく無かったわけでは無い。

 無理やり渡されたとは言え無下に捨てるわけにもいかない、その『幸運のお守り』とやらを眺めてみる。
 根元に施された丁寧な装飾を見て量るに、あいつの大事なものだと容易に判別できる物だ。
 最初に見た時に汚いと思った羽のくたびれ具合は、あいつがこの『幸運のお守り』を大切にしていた年月の証なのだろう。
 ……それに。
 この世界に呼ばれた時に身に着けていたというだけでも、特別な思い入れのある物なのだと、今更になって気付く。
 そんな大事な物を、なぜ俺なんかに渡すのか。
 理解に苦しむ。
 イミテーションと戦う事に躊躇いを見せたり、戦場で他人を気遣うなど。
 ――――俺には到底理解など出来ない。




 大量生産された戦うだけの道具、使い捨ての兵器へ剣を向ける。
 それが誰に模して作られていようと、倒して前へ進むだけだ。
 俺の道を妨げるものを廃して行く。
 当然至極、迷いなど無い。

「いっくぜー!!!」

 くぐもった声、色を落とした姿、光の無い目。
 向かってくる敵がイミテーションである事など、戦う前から理解していた。
 そう、頭では分かっていた筈なのに――。
 間一髪で倒せたとは言え、一瞬の躊躇いが回避を遅らせ、不要な攻撃を受けてしまった。
 躊躇う必要など、どこにも無かったと言うのに。

 頭で判断して、体が動き出すまでのタイムロス。
 そんな無駄は俺には無いと、信じて疑った事が無かった。
 なぜ、動けなかったのか。
 あのイミテーションが、『幸運のお守り』を差し出したやつの姿を模していたからだ。
 ほんの一瞬だけ、姿が重なった。
 ――油断、したのだ。


 今負ったばかりの傷をポーションで癒しながら、欠いてしまった冷静さを取り戻すべく努める。
 こういう心理的な動揺を狙って、あのイミテーションは作られているのだ。
 今更そんな見え透いた手口に引っ掛かった理由などは、当面考える事ではない。
 そこに自分の甘さがあると言うなら、克服する手段を講じる事が最優先課題だ
 あのイミテーションが、クリスタルを入手するために与えられた試練だと言うのなら、乗り越えてみせよう。
 冷静にさえなれば、困難な事でも何でも無いだろう。









 ――…………結局。
 本物と再会するまで、このくだらない現象は続いたのだ。
 なんてことは無い。
 根底から考えるべきだった。

 いや。
 考えたからと言って、あの時点で解決できていたかどうかは怪しい。

 理解してしまうには、頑な過ぎた。
 認めてしまうには、プライドが邪魔をした。

 それと分かって、胸の痞えは下りたけれど。




 ――さて。






 この甘さと弱さを、やつらに気付かれぬうちに何とかしなければ、な。
 恐れる必要など無い。

 幸いな事に、本物は傍に居るのだから。





《FIN》


【後書き、または言い訳】

初期状態で一番使いやすかったジタンと2〜3番目に使いやすかったバッツの二人がイミテーションに苦戦していて、逆に遅いが為に使いにくい部類に入ったスコールが、その二人を助けた……とか。
私的には、この設定に無理があるんじゃないかと突っ込みたくて仕方が無い。

また、スコールのDestiny Odysseyでは、エンカウントする度と言って良いくらいの頻度で『見せかけの旅人』に殺されたので、その辺も何とか理由付けしたかったのだ。
バッツなんて、平然と『かりそめの獅子』を倒していたぞ?

20090527


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