「いや! 終わりたくない!」
「戦ってわかったんだ」
「どんな絶望の中でも―――」
「あきらめちゃダメなんだ!」
諦めたらそこで全てが終わる。
「10人の戦士全員が、諦めない意思を持っているのか試させてもらった」とでも言いたげに、派手に輝くクリスタルが異説の世界へと俺たちを呼び戻す。
俺たちの意思が、クリスタルを再び輝かせたのか。
結果に至る過程の基準は定かではない。
確かなことは、10人揃って再び異説の世界に立っているという事実だけだ。
しばらく闇の中に居たからか、普段は曇り空の印象が強い『秩序の聖域』だというのに、白い色が眼に染みる。
異説の世界に戻ってきたという余韻に浸る間も無く、議論を尽くす。
焦点はもちろん、今後の方向性についてなのだが……。
――違和感を覚えた。
コスモスが消えた今、皆を先導して指揮をとると思っていたウォーリアは黙して何も語らず。
フリオニールが口火を切り、バッツがまとめているからだ。
皆が引っかかっているのは、闇に消される前に、ケフカが言い放った言葉。
「コスモスを滅ぼしたのは、お前たちなんだから〜!」
この言葉に対する意見が、真っ二つに分かれた。
自分たちがどこかでミスをして、コスモスを滅ぼしたのか?
そうであった場合、その原因が分からないうちは、闇雲に動いては危ない。
残った戦士を危険に晒すかも知れないからだ。
慎重派の意見はざっとこんなものだ。
……分からなくは無い。
対立意見は、「それなら、理由を知っていそうなカオス軍から聞き出そう」というものだ。
もちろん、ただ聞きに行って簡単に答えるとは思えないから実力行使を暗に伝えているのだろうが……。
「スコール」
……っ!!
バッツからいきなり声をかけられて、ひどく動揺した自分に驚いた。
あの声で名前を呼ばれたのが――。
あの目で正面から見据えられたのが、……ずい分と久しぶりだったから。
「おまえはどう思う?」
「……なぜ、俺に聞く?」
悪気は無かったのだが、つい……。
バッツの問い掛けに対して発した自分の言葉が、つっけんどんになった気がした。
冷たく突き放したように受け取られなかっただろうか。声に棘は無かっただろうか。
出てしまった言葉は取り返せない。
気分を害していないと良いのだが……。
「おまえ、SeeDとかいう傭兵で養成学校出身だって言ってただろ? 戦場のプロだから、こういうイレギュラーな時の対応方法に専門の知識があるんじゃないかと思ってさ」
…………なんだ。
そういう主旨の質問か。
こんな時なのだから、当たり前だな。
だが――。
問い掛けてきたのがバッツだったから。
他の誰かから尋ねられたのなら、こんなに動揺しなかったであろう。
皆の意見を聞いて、自分なりに考えていなかったこともないのだが、あれこれと違う方向へ気を揉んでいるうちに、考えていた言葉が綺麗さっぱりと消えてしまっていた。
かと言って、何も答えないわけにもいかず――。
「答えになるかは分からないが――」
「勝利を収めるために必要な、『天の時・地の利・人の和』のうち、我々は前者二つを既に失っている」
「だが、最後に残された『人の和』こそ、我々の強みであり、同時にそれを持っていないカオス軍に対する最大の力となろう」
「これからどう進むかも大事だが、コスモスという求心力を失った今こそ、まず原点に立ち戻って再確認するべきではないだろうか」
一つ呼吸をしてから、多分、質問と合致していないと思われる言葉を連ねた。
求められている答えとは明らかに違うが、考えずに口に出せる答えがこれだけだったのだ。
……この世界に来て学んだ、一番大事な……。
「……」
やはり、的外れだったか――。
バッツも含め、皆が一様に声も無くこちらを凝視している。
水を打ったように、ひっそりと静まり返った秩序の聖域。
さすがにバツが悪いな。
「おうっ、そうだよな!」
――静寂の後に。
それまで黙っていたジタンが頷いたのを皮切りに、ティーダからはバンバンと背中を叩かれるわ、フリオニールは興奮気味に「ああ、そうだな!」と言ってくるわオニオンも顔を赤くして首を大きく縦に振るわで、彼らのその勢いに呑まれてしまい、皆が高揚している理由すら直ぐには理解し得なかった。
「わたしもいろいろと考えるところがあったが、今はスコールの言う通り、10人の信頼が推進力となる」
「我々は真の闇からこの世界へ戻ってきたのだ、命を無駄にはしない」
「仲間を信じて、先へ進むしか無い!」
先ほどから一人考え込んでいた様子のウォーリアがようやく顔を上げ、高らかに進軍を宣言する。
この段に来て、やっと自分の発言が前へ進む原動力となったことに気付いた。
……多少は役に立てた、と考えても良いだろうか。
そういえば、バッツは――?
ぐるりと周りを見渡すと、目を細めてこちらを見ていたバッツと目が合う。
バッツは唇をきゅっと結び少し口角を上げた形で、俺に分かりやすいように大きく「うん」と頷いた。
こんな表情も……するのか。
今までのお調子者的な危うさはすっかり影を潜め、どんな難行苦行に当たろうとも対応しうるタフな精神を持ち合わせている。……少し大げさかも知れないが、今のバッツからはそんな雰囲気が漂ってくる。
恐らく、俺はバッツが期待していた通りの成果をあげたのだろう。
……。
複雑な心境だ。
能力を高く評価されて嬉しい気もする反面、人間的な部分を否定されたような……互いに相容れない複雑な感情に揺さぶられている。
バッツに「おまえはどう思う?」と聞かれた時に、違う期待をした所為か。
……何を言っているのだ、俺は。
何を期待したと……言うのか。
自分の世界に待っていてくれる女性がいると分かったのではないか。
バッツとの事は、こんな閉鎖的な世界での気の迷いだ。俺の弱さや甘さが引き起こした過ちだろう?
邪念に巻き込んですまなかった、と。
そう謝罪するつもりだったのに。
バッツの顔を見るとそんな気さえ飛んで行ってしまう。
あの声が、あの目が……。
胸の奥……自分ですら踏み込めない深層で、感情が激しく揺れ動く。
躊躇う事など何も無いはずの内から、ふつふつと溢れ出てくる想いに、自身でのコントロールが利かない。
自分の過ちを償う事を望んで、異説の世界へ戻ってきたのに。
俺のこの体たらくは一体どうしたことか。
これ以上、バッツに迷惑をかけるわけにはいかないというのに……。
《FIN》