〈A Light in the Black―4―〉

 全員での協議の結果、斥候は足の速いジタンとティーダ、近接攻撃部隊は俺とウォーリアとクラウド、一歩下がった間接攻撃部隊はフリオニールとセシル、後衛黒魔法攻撃がティナ。最後方に回復役としてオニオンとバッツが配置されることになった。
 この布陣に関して、全員が最初からすっきりと納得したわけではない。
 何故かほぼ全員から「近接攻撃の三人はその組み合わせで大丈夫か?」と何度も念を押されたし、逆に斥候の二人はウォリアやセシルから「勝手に判断して窮地に陥る事の無いように」と耳にタコが出来るくらい言い含められていた。
 そして、もう一人。
 メンバー間に亀裂が入らないようにと、表立って抗議するような真似はしないが、誰もがオニオンの「足の速さならジタンやティーダにも負けないし、直接攻撃も魔法も出来る! 自分だって前で戦えるのに、ティナよりも安全な後方に回されるなんて!」という声無き不満を感じ取っていた。
 オニオンが十分に戦えることは、全員が百も承知している。だが、回復を簡単に使える人数が圧倒的に足りないから、どうしてもバッツやオニオンに頼らざるを得ない。
 これをオニオンに伝えて、おまえの能力が必要なのだと理解させるべきか。
 だがしかし、オニオンが自分から不満を漏らさない以上、こちらからわざわざ問題を取り上げて事を荒立てるのはいかがなものか。
 これから出発するに辺り、初っ端から波風を立てたくないという思惑で黙っているオニオンの本心を、無神経に他人が言葉に出して晒すのは決して得策ではないだろう。
 オニオンには可哀想だが、ここは気付かなかった振りをしてあげるのが、一番良い方法かと思われる。
 恐らく何人かは気付いているのだろうが、どうするつもりだろうか?
 特に、メンバー間にわだかまりが生ずる事を極端に嫌いそうなウォーリアは?
 真剣な表情で何かを熟考していたウォーリアが口を開こうとした刹那――


「いいか、どんな敵が出るか分からないんだから、HPはいつでもフルチャージ! 少しでも減ったら、面倒くさがらずに直ぐ回復しに来いよ」
「でもって、しんがりはおれとオニオンに任せておけ!」
「例え敵が背後から奇襲をしかけてきても、簡単には突破させやしない! おれたちで第一波は防いでみせるからな!」
「な、オニオン?」

「……え? う、うん……」

 オニオンと同様に回復役を任されたバッツが一歩前へ出て、殿を務めるにあたっての意思表明をする。
 それと同時に、殿の重要性をさり気なく説き、オニオンに同意を求めることで、皆の間に漂っていた重い空気を変えてしまったのだ。
 まるでオニオンの真意など知らないかのように振舞っているが、恐らく気付いての行動だろう。

「うん、そうだね、最後尾と回復をよろしくね、オニオン」
「バッツよりよっぽどオニオンの方が頼れるからな、頼むッスよ!」
「ナンだよそれ? どういう意味だよ?!」
 俺と同様にバッツの意図を読み取った様子のセシルと、今までの展開を読めていたか疑わしいティーダが、早速バッツの言葉に続く。周りを囲む他の奴らも、バッツの機転に安堵したように、うんうんと頷いている。
 オニオンを“頼りにしてる”のは紛れも無い事実だ。言葉に嘘は無い。
 だからだろうか、オニオンも素直に言葉を受け止めて、「大丈夫、任せて」と嬉しそうに皆に応えている。――あの表情なら、もうわだかまりは無いだろう。
 オニオンとは相対的に突っ込まれているバッツだが、誰もティーダの軽口をフォローをする気は無いらしい。
 皆にオニオンが頼られることがバッツの狙いなのだから、逆に乗ってやるべきなのだろうな。

「バッツが不審なモノに触ったり、怪しいモノを拾ったりしないように、キチンと見張っていて欲しい」
「おいおいおい、スコールまで酷くないか?! 大体さ、おれとオニオンより、近接攻撃三人組の方がよっぽど危なっかしいじゃないか!」
「私たちのどこが危なっかしいと言うのだ?」
「三人揃って黙々と敵を狩っていそうだけど、誰も声を出さないから連携もしない非効率戦闘なうえ、うっかり同士討ちの心配もあるもんな!」
 バッツに突っ込めば、瞬時に想像以上の言葉が返ってくる。
 今まで黙っていたウォーリアでさえ、そのテンポの良さに誘われたか、反射的に口を開く。
 我慢できなくなってか、ティーダの横からジタンも絡んでくる。
 ジタンにしては意外とも思える奔放な発言に、皆が一瞬静まり返ったその時――



「……あとの二人は知らないが、俺は大丈夫だ」
「ちょ、クラウド! 自分だけかよっ?!」


 絶妙のタイミングで発したクラウドのボケなのか本気なのか判断に困る言葉に対して、間髪を入れないバッツの突っ込み。
 見ている誰もが、一瞬だけ呆れた表情をした後、一様に口元を綻ばす。
 ――空気が変わる。
 お互いに、少なからず遠慮があった事は否めない。
 だが、ほんの少しの機転または視点の変更で、気の持ち様は変わっていくものだ。
 10人の中を流れる空気は、――信頼。
 未知なる道へ一歩を進みだす不安も、この仲間と共にあるならきっと大丈夫だ。
 そう――俺は信じられる。
 俺だけではない。きっと他の奴らも――。





「スコール!」

 当初に決めたフォーメーション通りの陣形で、ついに秩序の聖域を出立しようとした時。
 最後方に居たはずのバッツが俺の名を呼びながら走り寄ってきて、「言っておきたいことがある」と、いきなり人差し指を突き立てた。
 なんだ?
 バッツのことだから、さっきの冗談に対するクレームでもないだろう。

「な、おまえが思う『格好良い自分』より、他人から見て『格好良いスコール・レオンハート』を目指せよ」
 ……?
 何が言いたいのかと、バッツが放った言葉の真意を探る。
 「他人から見て」という言葉が、妙に引っ掛かってしまったからだ。
 自分という人間が他人からどのように見られているのか。他人の目など気にしていないように振舞っているが、実のところ俺はとても気にしている。
 それを、バッツに見透かされているのか。それとも、今のは言葉のあやで、単なる偶然なのか。
 隠しているからと言って、では知られたくないのかと自問すれば、答えは――否だ。
 ……特にバッツには……。
 意識的であれ無意識であれ、言葉に出さずとも分かって欲しいと望む気持ちはある。
 ただ、理解して欲しいと望む反面、確信を持たれるのは嫌なのだ。
 複雑な心境、と言わざるを得まい。

「こら、難しい顔すんな!」
「いいか! おまえがもし格好悪いと思っていたとしても、最後まで諦めず生に執着する姿が一番格好良いんだぞ!」
「だから、キチンと回復に来い! ……おれのところに」
「それだけ、……覚えておいて欲しくてさ」
 へらへらと笑って話していたバッツの表情が一瞬だけ険しくなり、眉間に皺が寄る。
 見間違ったかと疑うくらい、短い時間。
 瞬きをしている間にはもう、いつもの表情。
「おれ、後ろからおまえのことちゃんと見てるからな」
 俺の肩をポンと叩き、言いたい事だけを言って、バッツは持ち場へと戻っていった。
 「おまえのこと、ちゃんと見てるからな」……か。



「準備は良いか?」
「ああ、行こう」
 ウォーリアが全体を見渡し先を促すと、皆が一様に前を見据えて強く頷く。
 否応もなく、緊張が走る。

 最後の戦いの火蓋は、切って落とされた。



《FIN》

A Light In The Black―5―
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