〈スコバツ in FF5〉

【風の輝き】

 暁の戦士やタイクーン王の力を借り、ようやくエクスデスを倒した事で、世界にクリスタルと平和が戻ってきた。
 取り戻した平和を確認するように、イストリーの村からウォルスの町へと、バッツはボコの背に乗って駆け巡る。
 髪に頬に風を感じる度に、根源となるクリスタルが蘇り、再びこの世界が明るく輝いている事を実感しながら。

 だが、ふとした時――それは、一瞬だけ風が止んだ時だろうか。
 バッツは幻を追うような遠い目で、見えない何かを探す。
 必死にエクスデスを追っていた時には、ただ世界を救う事しか頭に無かった。
 しかし、平和を甘受できるようになると、自分の居るべき場所が本当にここで良いのかと、バッツは自問自答を繰り返す。
 それが自分らしくない事は、バッツ本人が一番良く分かっていた。
 なぜそう感じるのか、その理由すら分からない。

「うわーーっ! 来るぞ来るぞ! ボコ、全速力で走れーーーっ!!!」
 変わりやすい天候さえ、クリスタルの恩恵だとよく知っている。
 だが、黒々とした雨雲に追いつかれ、呑気にボコと二人で濡れ鼠になるのは困りものだ。
 日頃は到底出さないようなスピードで、ボコは近くにあった洞穴目指して一目散に走り続けた。
「ス、ストップ、ボコ! おれが振り落とされる〜〜〜!!!」
 情けない声を出す相棒の言葉を、ボコが聞いていたかは定かではない。
 バッツの言葉を完全無視したボコのおかげで、二人はびしょ濡れになる前に、洞窟への避難に成功したのだった。

「ひどいよ、ボコ!」
「クエっ!」
「……まあ確かに、おかげでほとんど濡れなかったけどさー」
 バッツが非難の声をあげれば、ボコは自分の正当性を言い返す。
 こういう場合、大抵はボコの判断が正しい。
 それと分かっているから、バッツは直ぐに反省し、たのもしい相棒だと一人で納得するのだ。

「ああ、すっごい雨だなぁ」
「水煙で、すぐ近場すら見えなくなっちゃったよー」
「でも、通り雨だろうから、ちょっと雨宿りしていればやみそうだ」
 洞穴の入り口で、バケツの水をひっくり返したような外の雨を眺めながら、バッツはボコに語りかける。
 それはいつものバッツだった。
 そう、長年の相棒であるボコから見ても、バッツに変わりは無かった。

「クエっっっ!!!」
 次の瞬間、バッツは盛大な尻餅をついた。
 ボコが自分のくちばしで、後ろからバッツの服を引っ張ったからだ。
「いてててーー! ナンだよ、ボコ?!!」
「クエっ!」
「……え?」
 ボコが理由も無くバッツの服を引っ張って転ばす筈が無い。
 バッツが……激しく叩きつける雨の中に、出て行こうとしたからだ。
 ――それも無意識に。

「クエっ! クエーっっ!!」
「悪い、そんなに怒るなよ」

「よく分かんないだけどさ」
「おれ……この雨、好きみたい」
「こんな風に激しくて……視界が狭まってると」
「“他の何も見るな、この雨だけ見てろ”って、言われてるような気がするんだ」

「クエ?」
 雨を見つめるバッツの目。
 あれはいつかの遠い目。
 愛しい誰かを探すような、そんな切ない目。

「西の方から明るくなってきた」
「もうすぐ、……やんじまうな」
 この激しい通り雨の名を、バッツは思い出しているのだろうか。



 次第に空は明るさを取り戻し、やがて通り雨は綺麗さっぱりとあがってしまった。
 残されたのは、ぬかるみと化した地面と、雨を浴びて強く香る草花の匂い、浄化された空気。
 そして、視界の向こうに、二重にかかる虹。

「おおお、すげー! 二重の虹だぜ! 見ろよ、ボコ!!」
「クエっ! ……クエ?」
 滅多に見ることの無い二重にかかる虹に、バッツは素直に驚嘆の声をあげ、ボコも同じように珍しい景色を喜んでいた時だった。
 虹の向こうから、一つの影が、一人と一羽にゆっくりと近付いてくる。
 やがてその影がはっきりと輪郭を形作った時、バッツの目は現実に揺れた。




「…………バッツ」



《FIN》

in FF5・其の弐
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